【歩行分析】膝関節の角度と動きを歩行周期別に紹介

歩行分析において、関節の角度変化を観察だけで把握することは困難です。

しかし、正常歩行における関節角度や動きがどのような仕組みなのかを理解しておくことで、観察がしやすくなり、歩行分析力を高めることができます。

歩行分析における関節の角度と動きについて、「運動の範囲」「発生するモーメント」「筋の活動」「機能的意義」という観察すべき4項目の重要性を説明させて頂きました。

この記事では、さらに深堀りして、歩行における「膝関節」の角度と動きについてご紹介させて頂きます。

関節の角度と動きを理解する上で、下肢の関節についての基礎は固めておきましょう。

また、歩行の各相における関節と筋肉の動きを一読後、この記事を読み進めて頂くことを推奨します。

歩行における「膝関節」の働き

歩行における膝関節の働きを、立脚期と遊脚期別にご紹介します。

立脚期

歩行における立脚期の膝関節は安定に重要で、大腿四頭筋が膝関節を制御しています。

歩行中、大腿四頭筋は衝撃吸収のための膝関節屈曲が15°を超えないように遠心性収縮をしており、この時に大腿直筋を除いて最大収縮となります。

もう一つの重要な要素としては、下腿三頭筋によって制御される下腿の動的な安定性です。

例えば、筋の遠心性の協調作業といったメカニズムは単脚支持で膝伸展をサポートし、脚が内側へ崩れることを防いでいます。

また、股関節外転筋群の活動は、腸脛靭帯を緊張させ、膝関節の内側に荷重を加える内転方向のモーメントに拮抗して働きます。

遊脚期

遊脚期の膝関節の運動の範囲は、他のどの関節よりも大きいのが特徴です。

爪先が離床するためには、60°の膝関節屈曲が必要となります。

遊脚初期で必要となる屈曲のわずかな部分のみが、筋活動の直接作用によるものです。

膝関節を屈曲させているのは、前遊脚期における足関節底屈筋群の残存的活動と股関節屈曲、そして下腿の慣性力です。

つまり、膝関節の筋による直接的な屈曲は、従属的な役割と言えます。

そのため、正常な膝関節の運動は、立脚期においても遊脚期においても股関節や足関節の運動に依存していることになります。

各歩行周期における「膝関節」

歩行周期の各相において、「膝関節」にどのような角度と動きが生じているのか、その詳細を1つづつご説明していきます。

初期接地(歩行周期の0%)

【運動の範囲】
膝関節は、観察ではニュートロラル・ゼロ・ポジションです。
しかし、計測技術を駆使した場合は、5°程度の屈曲が計測されることもあります。

【発生するモーメント】
ほんの一瞬、伸展方向のモーメントが生じます。

【筋の活動】
・遊脚終期から引き続いて大腿四頭筋が活動しています。
そして、次に起こる衝撃吸収相での最大負荷に備えた準備体制に入ります。
・膝関節に一瞬発生する伸展方向のモーメントに対し、ハムストリングスが遠心性収縮をします。

【機能的意義】
初期接地の一瞬に生じる伸展方向のモーメントは、膝関節を安定させる役割があります。

荷重応答期(歩行周期の0~12%)

【運動の範囲】
膝関節は5°屈曲位から15°屈曲します。

【発生するモーメント】
・矢状面
ヒールロッカーの働きと、足部に対して体幹が後方に位置していることにより、すばやく適度な屈曲方向へのモーメントが集中して発生します。床反力ベクトルは、膝関節の後方を通過します。

・水平面
距骨下の足の回内位により、下腿に内旋方向のモーメントが生じます。それは膝関節にも影響を及ぼします。
下腿の過度の内旋は、大腿筋膜張筋と大腿二頭筋長頭の外旋方向の張力で抑えられます。

・前額面

内転方向の強いモーメントが発生します。

これは立脚期すべてにわたって発生しますが、荷重応答期で最も顕著となります。

大腿二頭筋長頭の活動と、大殿筋が腸脛靭帯に及ぼす緊張は、内転方向のモーメントに対し抵抗力を生じさせ、脚を安定させます。

【筋の活動】
・大腿四頭筋が屈曲方向のモーメントに対抗し、遠心性に収縮して衝撃吸収に貢献します。
大腿四頭筋は大腿直筋を除いて、この相で最大収縮します。
・この相の初めに、股関節の関節ポジション維持に関与するハムストリングスの活動は減少していきます。

【機能的意義】
・3つのすべての関節面において衝撃吸収の役割があります。
・脚の安定性が重要な役割です。
・前方への動きは継続して起こります。

立脚中期(歩行周期の12~31%)

【運動の範囲】
・膝関節は15°屈曲位から5°屈曲位まで伸展しますが、完全伸展まではいきません。
・観察では、伸展した膝はニュートロラル・ゼロ・ポジションに見えます。

【発生するモーメント】
・矢状面
反対側の脚で生じている前方への勢いにより、観察肢に伸展方向のモーメントが発生し、膝関節が受動的に伸展する力が生じます。
床反力ベクトルは、膝関節の前方を通過し、それにより膝関節が完全に伸展していなくても大腿四頭筋は活動しません。

・前額面
身体重心が完全に支持面の直上へ移動してくることはないので、膝関節には内転方向のモーメントが発生します。
結果として、床反力ベクトルは膝関節の内側を通過します。

【筋の活動】
・この相の前半では、大腿四頭筋が膝関節を動的に安定させます。
後半では、伸展方向のモーメントの発生開始とともに大腿四頭筋の活動は終了します。

・下腿三頭筋が間接的に膝関節を安定させます。
この筋活動は下腿を後方へ引きつけ、大腿が下腿より速く前方へ動くことを可能にします。

・股関節外転筋群の活動は、腸脛靭帯を緊張させ、膝関節に生じる内転方向のモーメントに反作用を及ぼします。
立脚中期後半では、膝関節を安定させるために他の筋は働かないため、重要な意味を持ちます。

【機能的意義】
・この相の後半、膝関節は大腿四頭筋の活動なしに安定します。
・この安定性は、伸展方向の床反力によるモーメントと、下腿三頭筋の遠心性収縮によって保たれます。

立脚終期(歩行周期の31%~50%)

【運動の範囲】
観察では膝関節はニュートロラル・ゼロ・ポジションに見えますが、5°屈曲位です。

【発生するモーメント】
伸展方向のモーメントはこの相で最大になりますが、この相の終わりに減少します。

【筋の活動】
・膝関節伸展筋群の活動はありません。
・下腿三頭筋の最大収縮が、引き続き下腿の前方への動きを制御します。
それによって膝関節も安定します。

【機能的意義】
関節の安定性が維持され、前方への加速は継続します。

前遊脚期(歩行周期の50%~62%)

【運動の範囲】
膝関節は、はっきりと目に見えてすばやく、ニュートロラル・ゼロ・ポジションから40°まで屈曲します。

【発生するモーメント】
反対側へ荷重が移行することにより、観察肢は非常にすばやく免荷され、残存している足関節底屈筋力によって、膝関節を屈曲させるモーメントが生じます。

【筋の活動】
・膝関節屈曲は受動的に起こり、薄筋がわずかな力で活動します。
・膝関節の速すぎる受動的屈曲が起こった時は、大腿直筋の活動がそれを抑えます。
・下腿三頭筋は、この相の初めにわずかな残存的活動(MMTの25%)をします。踵離れと下腿の前方への動きを加速します。
・膝窩筋の活動がピークに達しますが、MMTの25%のみで、膝関節屈曲に関与します。

【機能的意義】
・前遊脚期における膝関節屈曲は、脚の離床に重要な役割を果たします。
この相ですでに、次の遊脚初期で到達する膝関節屈曲の半分以上が起こっています。
・前遊脚期は遊脚期の準備相であり、足はまだ床に接しているものの、機能的には遊脚肢の前方への動きに含まれます。

遊脚初期(歩行周期の62%~75%)

【運動の範囲】
膝関節は短時間に40°屈曲位から60°まで屈曲します。

【発生するモーメント】
股関節屈筋群による能動的な大腿の前方への動きと、下腿に生じる慣性力が相まって、膝関節周りで屈曲方向のモーメントが生じます。

【筋の活動】
・大腿二頭筋の短頭と縫工筋と薄筋が活動し、これらの筋の活動はピークに達します。
・膝関節屈曲は股関節屈曲によりサポートされます。

【機能的意義】
足は離床し、大腿は持ち上がり、前方へ動きます。

遊脚中期(歩行周期の75%~87%)

【運動の範囲】
・膝関節は60°屈曲位から25°屈曲位まで短時間に受動的に伸展します。
・下腿は床に対し直角の位置まで動きます。

【発生するモーメント】
遊脚中期の後半に、下腿の勢いによって膝関節に伸展方向のモーメントが生じます。

【筋の活動】
・膝関節の伸展は、重力と勢いによって達成されます。
必要に応じて大腿二頭筋の短頭が活動し、膝関節伸展のスピードを制御します。
・ハムストリングスが、遊脚中期の終盤で活動します。

【機能的意義】
この相で歩幅確保に必要な膝関節伸展が始まります。

遊脚終期(歩行周期の87%~100%)

【運動の範囲】
膝関節は25°屈曲位からニュートロラル・ゼロ・ポジションまで伸展します。
場合によってはその後5°屈曲します。

【発生するモーメント】
下腿のすばやい前方への動きによって、膝関節に作用する伸展方向のモーメントが継続して発生します。

【筋の活動】
・大腿四頭筋が膝関節の完全伸展を確実にするため、求心性収縮をします。
・ハムストリングスは、大腿の動きにブレーキをかけるため、遠心性収縮のピークに達します。

【機能的意義】
・前方へ伸びた脚が歩幅を決定します。
・脚は次に控えた床接地への準備をします。

〈参考文献〉

1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院

まとめ

歩行中の「膝関節」の角度と動きについてご紹介させて頂きました。

歩行中の関節の角度と動きの理解は、歩行分析において大切です。

今回は「膝関節」について取り上げましたが、他にも歩行において着目すべき関節「足関節と中足指節間関節」「距骨下関節」「股関節と骨盤」「体幹」「腕」があります。

是非、参考にしてみてください。

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