【歩行分析】股関節の異常運動「屈曲制限、過度の屈曲」について

歩行分析において、正常とは違う異常運動を見極め、原因を追求することは大切です。

しかし、「正常とは何か違うけど、それが何なのか漠然としている」「股関節に異常がある場合、どのような歩行になるのか知りたい」などの悩みを抱える理学療法士さんは多いと思います。

漠然と見て歩行分析をするのは至難の業ですが、体の各関節ごとにどのような異常運動があるかを理解しておくと、歩行分析がしやすくなります。

そこで、この記事では、股関節の異常運動が歩行に与える影響をご説明致します。

股関節の異常運動について

股関節の異常運動は、この関節が有する可動性に基づき、矢状面・前額面・水平面すべての観察面で起こりえます。

股関節は下肢と体幹を連携しているので、異常運動の観察は骨盤と体幹の運動についてそれぞれ注意する必要があります。

正常な股関節の機能と比較した異常として、大腿骨と骨盤、そして間接的に体幹の異常肢位によって観察できます。

歩行の中で骨盤は動きが小さかったり、また大腿骨の起こりうる異常運動に伴い反対に動くことがあります。

これは体幹との関節連結の可動性に依存して起こります。

それゆえ歩行中の異常運動を判断する際は、大腿の動きと骨盤の動きを明確に限定しなければなりません。

股関節の異常運動「屈曲制限」の歩行分析

股関節の異常運動「屈曲制限」とは、正常に比べて小さい屈曲のことを示します。

股関節屈曲制限の原因や歩行に及ぼす影響について確認していきましょう。

荷重応答期の不十分な股関節屈曲の原因

荷重応答期の不十分な股関節屈曲の原因は以下の通りです。

・股関節伸展筋群に対する筋力要求を軽減するための意図的運動
股関節屈曲がわずかであれば屈曲方向の外部モーメントは減少します。このモーメントに抗して作用する伸展筋群の筋力は少なくてすみます。

・ 遊脚終期における パーストレトラクト(詳細後述)による不十分な股関節屈曲

不十分な股関節屈曲が荷重応答期に及ぼす影響

不十分な股関節屈曲が荷重応答期に及ぼす影響は以下の通りです。

・不十分な膝関節屈曲
・不十分な足関節底屈

両方の影響が衝撃吸収を阻害することがあります。

遊脚期における股関節屈曲制限の原因

遊脚期における股関節屈曲制限の原因は以下の通りです。

・股関節屈筋群の筋力不足
・股関節をすばやく屈曲できない運動制御の障害
・背臥位で伸ばした足を持ち上げる際、股関節の屈曲が40°に満たない
・股関節伸筋群の過緊張
・股関節の疼痛
・股関節屈曲の可動域制限
・荷重応答期で股関節伸筋群に対する筋力要求を軽減するための意図的な制限
・足もしくは爪先を床にこすりつけることによる結果
・遊脚終期におけるパーストレトラクトの二次的現象

股関節屈曲制限が遊脚期に及ぼす影響

股関節屈曲制限が遊脚期に及ぼす影響は以下の通りです。

・足の離床の阻害
・前方への勢いの減少
・脚の前方への動きの阻害
・歩幅の縮小

股関節屈曲制限に対する代償運動

股関節の屈曲制限がある場合、遊脚肢の前方への動きが制限されるために以下の代償運動が観察されます。

・骨盤の後傾

骨盤がすばやく後ろへ傾き、恥骨結合が上を向きます。

大腿を引き上げるために腹筋が利用されます。

この代償運動は、前遊脚期と遊脚初期の移行期にみられます。

・骨盤の持ち上げ

・過度の骨盤の前方回旋

・股関節の外転

骨盤の持ち上げに引き続き、過度の骨盤の前方回旋ならびに股関節の外転が伴う代償運動で、体幹の全重量が動かされるのでエネルギー消費は高まります。

・過度の膝関節屈曲

過度で有効な股関節の受動的屈曲が、前遊脚期と遊脚初期の移行期に急激な膝関節屈曲によって生じます。

その理由は、足の重量を含む下腿が後方にくることによって、脚の全重量がぶら下がっているポイントである股関節の真下にくるため、受動的に大腿は前方へ動くからです。

・反対側の伸び上がり

股関節の屈曲制限にかかわらず観察肢を振り抜くために、反対側の踵を早期に過度に持ち上げます。

・体幹の側屈

体幹を立脚肢側へ側屈します。

股関節の異常運動「過度の屈曲」の歩行分析

股関節の異常運動「過度の屈曲」とは、正常に比べて大きい屈曲のことを示します。

股関節過度の屈曲の原因や歩行に及ぼす影響について確認していきましょう。

荷重応答期における過度の股関節屈曲の原因

荷重応答期における過度の股関節屈曲の原因は以下の通りです。

・股関節の屈曲拘縮
・腸脛靭帯の拘縮
・二次的な現象。荷重応答期で足関節の過度の背屈が一次的な原因で、その際に膝関節が過度に屈曲している時(過度のヒールロッカー機能

荷重応答期において過度の股関節屈曲が歩行メカニズムに及ぼす影響

荷重応答期における過度の股関節屈曲が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・大腿四頭筋と股関節伸筋群に対する筋力要求の増大
・脚の安定性の減少
・エネルギー消費の増大

立脚中期における過度の股関節屈曲の原因

立脚中期における過度の股関節屈曲の原因は以下の通りです。

・股関節の屈曲拘縮
・股関節屈筋群の痙縮
・荷重応答期における二次的現象:一次的な原因として足関節の過度の背屈と膝関節の過度の屈曲が起こった場合(過度のヒールロッカー機能
・股関節の疼痛
・立脚終期における踵の持ち上げ不足(ノーヒールオフ)に伴う二次的現象

立脚中期において過度の股関節屈曲が歩行メカニズムに及ぼす影響

立脚中期における過度の股関節屈曲が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・大腿四頭筋と股関節伸筋群に対する筋力要求の増大
・脚の安定性の減少
・反対側の歩幅の短縮

遊脚期における過度の股関節屈曲の原因

遊脚期における過度の股関節屈曲の原因は以下の通りです。

・不十分な膝関節の屈曲や過度の足関節底屈により、起こりやすくなるトゥドラッグに対処するための意図的動作

遊脚期において過度の股関節屈曲が歩行メカニズムに及ぼす影響

遊脚期において過度の股関節屈曲が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・エネルギー消費の増大
トゥクリアランスの改善

過度の股関節屈曲は、遊脚初期、遊脚中期および遊脚終期で起こりえます。

その際、機能的課題である遊脚肢の前方への動きは阻害されません。

股関節の異常運動「パーストレトラクト」の歩行分析

パーストレトラクト(引き戻し)とは、たとえばポリオ後遺症などの大腿四頭筋麻痺を有する患者さんが、遊脚終期で膝を伸ばし、次に控えた遊脚終期の準備をするための股関節の代償運動です。

股関節をすばやく過度に屈曲し、下腿を前方にもってきて、遊脚終期で間髪入れずに大腿を能動的に引き戻します。

この方法は、下腿の慣性力を借りて膝関節を伸展させることを可能にし、結果として初期接地における股関節の屈曲角度と股関節伸展筋群に対する筋力要求は減少します。

遊脚終期におけるパーストレトラクトの原因

遊脚終期におけるパーストレトラクトの原因は以下の通りです。

・深部感覚障害
・次に控えた荷重応答期のために安定した膝を維持するための意図的動作
・大腿四頭筋と股関節伸筋群への筋力要求を軽減するための意図的動作
・ハムストリングスの過緊張
・股関節が屈曲している間、膝関節伸展をコントロールする筋活動の欠如

パーストレトラクトが歩行メカニズムに及ぼす影響

パーストレトラクトが歩行メカニズムに及ぼす影響は、歩幅の減少です。

股関節の異常運動「過度の内旋」の歩行分析

股関節の異常運動「過度の内旋」とは、膝蓋骨が内側へ向く方向への異常運動です。

過度の内旋の原因や、歩行に及ぼす影響を確認していきましょう。

股関節における過度の内旋の原因

股関節における過度の内旋の原因は以下の通りです。

・内旋筋の過度の活動もしくは拘縮
・大腿骨の前捻
・大腿四頭筋が筋力不足の場合に膝関節の安定性を改善するための意図的運動

過度の内旋が歩行メカニズムに及ぼす影響

過度の内旋が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・内側へねじられた足のポジションが、脚の機能的変化を生じさせます。それによって前方への動きと、場合によっては足の離床が阻害されます。
・膝関節の外側の負荷(荷重応答期と立脚中期)

股関節の異常運動「過度の外旋」の歩行分析

股関節の異常運動「過度の外旋」とは、膝蓋骨が外側へ向く方向への異常運動です。

過度の外旋の原因や、歩行に及ぼす影響を確認していきましょう。

荷重応答期と立脚中期における過度の外旋の原因

荷重応答期と立脚中期における過度の外旋の原因は以下の通りです。

・外旋位拘縮
・足関節の背屈運動の制限(下腿のギブス固定)

荷重応答期と立脚中期における過度の外旋が歩行メカニズムに及ぼす影響

荷重応答期と立脚中期における過度の外旋が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・外側へねじられた足のポジションが支持面を増大させる
フォアフットロッカー機能の阻害
・身体重量を前方へ運ぶ際に内側の膝関節構成体への負荷の増大

遊脚期における過度の外旋の原因

遊脚期における過度の外旋の原因は以下の通りです。

・股関節屈筋群の筋力不足にかかわらず脚を前方へ運ぶための意図的運動

トゥクリアランスを得るための意図的運動

遊脚期における過度の外旋が歩行メカニズムに及ぼす影響

遊脚期における過度の外旋が歩行メカニズムに及ぼす影響は、トゥクリアランスを得やすくすることです。

股関節の異常運動「過度の外転」の歩行分析

股関節の異常運動「過度の外転」とは、前額面でニュートラルゼロポジションから外転している時の異常運動です。

過度の外転の原因や歩行に及ぼす影響を確認していきましょう。

過度の外転の原因

過度の外転の原因は以下の通りです。

・外転筋群の拘縮
・観察肢の有効長の延長
・延長された有効長をもつ脚のトゥクリアランスを得るための代償運動

過度の外転が歩行メカニズムに及ぼす影響

過度の外転が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・支持面の増大
・有効長の短縮
・エネルギー消費の増大

股関節の異常運動「過度の内転」の歩行分析

股関節の異常運動「過度の内転」とは、前額面でニュートラルゼロポジションから内転している時の異常運動です。

過度の内転の原因や歩行に及ぼす影響を確認していきましょう。

過度の外転の原因

過度の内転の原因は以下の通りです。

・内転筋群の過度の活動
・内転筋群の拘縮
・骨盤の反対側の落ち込みの二次的現象

過度の内転が歩行メカニズムに及ぼす影響

過度の内転が歩行メカニズムに及ぼす影響は以下の通りです。

・支持面の縮小
・脚の安定性の低下
・反対側の骨盤の落ち込みにより、場合によっては反対側のトゥクリアランスが阻害される

〈参考文献〉

1)Kirsten Gotz-Neumann (2014) 観察による歩行分析 原著 第1版第14刷 医学書院

まとめ

股関節の異常運動「屈曲制限と過度の屈曲」が歩行に与える影響をご説明致しました。

歩行分析において、股関節の動きは非常に重要です。

股関節は体の中心部の関節であり、全体的なバランスをコントロールします。

これを機に、股関節の異常により歩行にはどのような影響があるのか、理解が深まればと思います。

是非、明日からの臨床に活かしていきましょう。

また、歩行分析において、異常運動を観察し評価を進めるために、まず健常歩行の機能ならびにメカニズムを正しく理解しなければなりません。

歩行の各相における関節と筋肉の動き股関節と骨盤の角度と動きにて、健常歩行における股関節についてご紹介していますので、こちらもご参照下さい。

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