PREMIUM COLUMN
2021/01/19
目次
理学療法士にとって、歩行は目標に掲げることが多い動作であり、評価する機会が多い能力です。
歩行の評価スケールの中でも歩行速度は、転倒リスクや自立度を判断する材料として用いられることが多く、重要な評価スケールの一つとなっています。
また、高齢者の生活に影響を与えるフレイル・サルコペニアを評価する基準にもなっており、身体機能を評価するだけではなく、全身状態を確認する指標にもなっています。
今回のコラムでは、重要な評価の一つの歩行速度に焦点を当て、高齢者の歩行の特徴や、歩行速度の計算の仕方などをご紹介していきます。
歩行速度は年齢を重ねるほど低下します。高齢者の歩行速度の低下は、生存率や虚弱、転倒に関与すると言われており、歩行速度の改善に向けて様々な介入方法が研究されています。
では、基本的な高齢者の歩行速度の特徴や歩行速度は、一体どのようなものでしょうか。確認していきましょう。
高齢者の歩行速度は、成人と比較すると遅い傾向にあります。
人は加齢により、筋力や感覚、バランス能力、認知機能などの心身機能が低下します。また加齢に伴い病気にかかることも多くなり、疾病の影響でも心身機能が低下してしまいます。心身機能が低下することで、歩行に必要な筋力の低下やバランス能力などが低下し、また歩容も正常歩行から逸脱してしまいます。効率的な歩行が難しくなり、歩幅も小さくなることで、歩行速度が低下する傾向にあります。
また、転倒を経験している高齢者では、転倒を経験していない高齢者よりも、歩行速度が遅いと言われています。転倒を経験している高齢者は、より歩幅が小さくなり、歩調の変動が大きくなります。不安定な歩行になることで、転倒をしやすく、歩行速度も低下します。
一方で、高齢者の歩行速度の特徴として、自身の心身機能を理解し、障害物を乗り越える際にゆっくりとアプローチを行う、転倒を懸念して意識的にゆっくりと歩くなどの傾向にあることも分かっています*1。
歩行速度の低下は、上記したように加齢の状態や疾病、転倒歴などの影響を受けますが、低下の程度には個人差があり、影響を受けている原因も様々です。歩行速度を評価するうえで、まずは加齢の影響なのか、それともそれ以外が原因で歩行速度が低下しているのか、見極めることが大切です。
また、以下に高齢者の歩行の特徴についてまとめたページを載せますので、興味がある方はぜひご参照くださいませ。
>>>高齢者の歩行の特徴6つと歩行障害について紹介します。
高齢者の歩行速度の平均については様々な研究がなされていますが、一定した報告はありません。年代や性別、国籍などがそれぞれの研究で異なっており、一定の結果が得られにくいのだと思われます。
参考として、地域高齢者403名を対象に行われた研究では、後期高齢者の通常歩行速度は、0.98±0.27m/秒、前期高齢者の通常歩行速度は、1.20±0.22m/秒と報告されています。また、様々な報告において、加齢に伴い歩行速度は低下すると言われています*2。
また、サルコペニアやフレイルの診断基準の中に歩行速度が指標のひとつとされていますが、それぞれのカットオフ値0.8m/秒です。また10m歩行テストでは、通常高齢者の基準として1.0m/秒とされています。高齢者の平均的な歩行速度とともに、高齢者に関わる歩行速度の指標も覚えておくとよいでしょう。
若年の健常成人の歩行速度は、自由歩行の条件下で、男性は1.19〜1.59m/秒、女性は1.12〜1.54m/秒と報告されています*3。
またこちらの資料では
男女ともに好みの自然歩行では、速さは80m/minになっているが、加齢共に低下する 引用:基礎運動学 第6版 中村隆一
男女ともに好みの自然歩行では、速さは80m/minになっているが、加齢共に低下する
引用:基礎運動学 第6版 中村隆一
と言われています。
秒速に直すと、1.34m/秒です。
高齢者の研究同様、男女の歩行速度の平均についても、性別・年代別にわけて様々な研究がされ、論文化されています。
一般的に男性の歩行速度が速く、女性の歩行速度は遅いと報告されていることが多いようです。自分が調べたい対象者で行っている論文を見つけて、参考にしてみてはいかがでしょうか。
基本的に歩行速度が速くなると、歩幅やケイデンス(歩行率)の増加がみられます。歩行率とは、歩数を時間(分または秒)で割ったもので、時間当たりのステップ数を表し、歩数が増えると歩行率が上がります。
一般的に人は歩行速度を上げる過程で、快適で最長な歩幅を得るまでは、歩幅もしくはストライド長を大きくしながらケイデンスも上げます。最適な歩幅になり、それ以上の速度の増加を行う際は、ケイデンスの増加が行われます*4。
歩行速度の求め方は、距離÷時間です。
単位は、m/秒やcm/秒、km/時などで表されます。評価したいものによって、単位は変えましょう。
(計算例)10mを20秒で歩いた場合10m÷20秒=0.5m/秒
という計算になります。1秒あたりに、0.5m進んだということになります。
歩行速度を上げるには、歩幅やストライド長を長くする、ケイデンスを増加させる、という二つの方略があります。健康な若年成人であれば、この二つの方略を使用し、問題なく歩行速度を上げることができると思います。しかし、高齢者であれば、歩行速度を上げられない場合があります。
高齢者は加齢や病気のために、筋力やバランス、関節可動域、認知機能、視覚などの身体機能が低下しており、歩行速度が低下している場合があります。そのため、高齢者に対して、歩行速度を上げるように指示するだけでは、転倒リスクを高めてしまうだけの場合があります。
高齢者の歩行速度を上げるためには、心身機能を適切に評価し、筋力トレーニングやバランス練習、ストレッチなどを組み合わせながら、トレーニングを行いましょう。
<参考文献>(1) 田中繁・高橋明(2011) モーターコントロール 運動制御の理論から臨床実践へ 原著第3版 医歯薬出版(2) 桂俊樹・星野明子(2007) 地域後期高齢者の閉じこもり予防のための歩行移動能力の維持に関連する要因 日建医誌(3) 牧浦大祐(2010) 歩行の安定性に性差は存在するのか?−加速度計を用いた歩行解析による検討— 理学療法科学(4) 島田智明・平田総一郎(2010) 筋骨格系のキネシオロジー 第1版第9刷 医歯薬出版
高齢者の歩行速度は、加齢に伴う心身機能の低下により、成人と比較すると遅くなり、また加齢に伴い低下していく傾向にあります。一方で、転倒に留意し、意識的に遅くしているという歩行の戦略を変えている場合もあります。
歩行速度が低下している、という面だけを評価するのではなく、なぜ遅くなっているのかクリニカルリーズニング(臨床推論)を行うことが重要です。原因を評価し、それぞれに合ったトレーニングを選択していきましょう。
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2021/01/19
高齢者の歩行速度についての平均と計算の仕方
目次
理学療法士にとって、歩行は目標に掲げることが多い動作であり、評価する機会が多い能力です。
歩行の評価スケールの中でも歩行速度は、転倒リスクや自立度を判断する材料として用いられることが多く、重要な評価スケールの一つとなっています。
また、高齢者の生活に影響を与えるフレイル・サルコペニアを評価する基準にもなっており、身体機能を評価するだけではなく、全身状態を確認する指標にもなっています。
今回のコラムでは、重要な評価の一つの歩行速度に焦点を当て、高齢者の歩行の特徴や、歩行速度の計算の仕方などをご紹介していきます。
目次
高齢者の歩行速度について
歩行速度は年齢を重ねるほど低下します。高齢者の歩行速度の低下は、生存率や虚弱、転倒に関与すると言われており、歩行速度の改善に向けて様々な介入方法が研究されています。
では、基本的な高齢者の歩行速度の特徴や歩行速度は、一体どのようなものでしょうか。確認していきましょう。
高齢者の歩行速度の特徴
高齢者の歩行速度は、成人と比較すると遅い傾向にあります。
人は加齢により、筋力や感覚、バランス能力、認知機能などの心身機能が低下します。また加齢に伴い病気にかかることも多くなり、疾病の影響でも心身機能が低下してしまいます。心身機能が低下することで、歩行に必要な筋力の低下やバランス能力などが低下し、また歩容も正常歩行から逸脱してしまいます。効率的な歩行が難しくなり、歩幅も小さくなることで、歩行速度が低下する傾向にあります。
また、転倒を経験している高齢者では、転倒を経験していない高齢者よりも、歩行速度が遅いと言われています。転倒を経験している高齢者は、より歩幅が小さくなり、歩調の変動が大きくなります。不安定な歩行になることで、転倒をしやすく、歩行速度も低下します。
一方で、高齢者の歩行速度の特徴として、自身の心身機能を理解し、障害物を乗り越える際にゆっくりとアプローチを行う、転倒を懸念して意識的にゆっくりと歩くなどの傾向にあることも分かっています*1。
歩行速度の低下は、上記したように加齢の状態や疾病、転倒歴などの影響を受けますが、低下の程度には個人差があり、影響を受けている原因も様々です。歩行速度を評価するうえで、まずは加齢の影響なのか、それともそれ以外が原因で歩行速度が低下しているのか、見極めることが大切です。
また、以下に高齢者の歩行の特徴についてまとめたページを載せますので、興味がある方はぜひご参照くださいませ。
>>>高齢者の歩行の特徴6つと歩行障害について紹介します。
高齢者の歩行速度
高齢者の歩行速度の平均については様々な研究がなされていますが、一定した報告はありません。年代や性別、国籍などがそれぞれの研究で異なっており、一定の結果が得られにくいのだと思われます。
参考として、地域高齢者403名を対象に行われた研究では、後期高齢者の通常歩行速度は、0.98±0.27m/秒、前期高齢者の通常歩行速度は、1.20±0.22m/秒と報告されています。また、様々な報告において、加齢に伴い歩行速度は低下すると言われています*2。
また、サルコペニアやフレイルの診断基準の中に歩行速度が指標のひとつとされていますが、それぞれのカットオフ値0.8m/秒です。また10m歩行テストでは、通常高齢者の基準として1.0m/秒とされています。高齢者の平均的な歩行速度とともに、高齢者に関わる歩行速度の指標も覚えておくとよいでしょう。
成人男女の平均速度について
若年の健常成人の歩行速度は、自由歩行の条件下で、男性は1.19〜1.59m/秒、女性は1.12〜1.54m/秒と報告されています*3。
またこちらの資料では
と言われています。
秒速に直すと、1.34m/秒です。
高齢者の研究同様、男女の歩行速度の平均についても、性別・年代別にわけて様々な研究がされ、論文化されています。
一般的に男性の歩行速度が速く、女性の歩行速度は遅いと報告されていることが多いようです。自分が調べたい対象者で行っている論文を見つけて、参考にしてみてはいかがでしょうか。
歩行速度と歩幅の関係
基本的に歩行速度が速くなると、歩幅やケイデンス(歩行率)の増加がみられます。歩行率とは、歩数を時間(分または秒)で割ったもので、時間当たりのステップ数を表し、歩数が増えると歩行率が上がります。
一般的に人は歩行速度を上げる過程で、快適で最長な歩幅を得るまでは、歩幅もしくはストライド長を大きくしながらケイデンスも上げます。最適な歩幅になり、それ以上の速度の増加を行う際は、ケイデンスの増加が行われます*4。
歩行速度の求め方と計算式
歩行速度の求め方は、距離÷時間です。
単位は、m/秒やcm/秒、km/時などで表されます。評価したいものによって、単位は変えましょう。
(計算例)
10mを20秒で歩いた場合
10m÷20秒=0.5m/秒
という計算になります。1秒あたりに、0.5m進んだということになります。
歩行速度を上げるには
歩行速度を上げるには、歩幅やストライド長を長くする、ケイデンスを増加させる、という二つの方略があります。健康な若年成人であれば、この二つの方略を使用し、問題なく歩行速度を上げることができると思います。しかし、高齢者であれば、歩行速度を上げられない場合があります。
高齢者は加齢や病気のために、筋力やバランス、関節可動域、認知機能、視覚などの身体機能が低下しており、歩行速度が低下している場合があります。そのため、高齢者に対して、歩行速度を上げるように指示するだけでは、転倒リスクを高めてしまうだけの場合があります。
高齢者の歩行速度を上げるためには、心身機能を適切に評価し、筋力トレーニングやバランス練習、ストレッチなどを組み合わせながら、トレーニングを行いましょう。
<参考文献>
(1) 田中繁・高橋明(2011) モーターコントロール 運動制御の理論から臨床実践へ 原著第3版 医歯薬出版
(2) 桂俊樹・星野明子(2007) 地域後期高齢者の閉じこもり予防のための歩行移動能力の維持に関連する要因 日建医誌
(3) 牧浦大祐(2010) 歩行の安定性に性差は存在するのか?−加速度計を用いた歩行解析による検討— 理学療法科学
(4) 島田智明・平田総一郎(2010) 筋骨格系のキネシオロジー 第1版第9刷 医歯薬出版
まとめ
高齢者の歩行速度は、加齢に伴う心身機能の低下により、成人と比較すると遅くなり、また加齢に伴い低下していく傾向にあります。一方で、転倒に留意し、意識的に遅くしているという歩行の戦略を変えている場合もあります。
歩行速度が低下している、という面だけを評価するのではなく、なぜ遅くなっているのかクリニカルリーズニング(臨床推論)を行うことが重要です。原因を評価し、それぞれに合ったトレーニングを選択していきましょう。